51.「素晴らしいアイデア」によるイノベーション 「アイデアによるイノベーションのうち、いずれに成功のチャンスがあるか、いずれに失敗の危険があるかは誰にもわからない」     −『イノベーションと企業家精神』P.152− ☆最も魅力的だがあてにならないもの   イノベーションはしばしば「素晴らしいアイデア」によって実現する。ひらめきから事業を生み出すことができれば、得られる利益は  ときに計り知れないほどになる。ドラッカーはそんな典型例としてファスナー、ボールペン、エアゾール缶などを挙げている。   しかし、アイデアによるイノベーションは、企業が体系的に起こせるようなものではない。アイデアを源にして商品を開発しても、成  功する確立は非常に小さく、開発費などの投資を回収できるケースはごくわずかだ。   アイデアとは直感的なもの。それを基にしたモノ・サービスの開発は、成功・失敗の見込みが読めず当てにならないのである。たとえ  ばドラッカーが挙げたファスナーは便利なものだ。しかし、なぜあれがボタンの代わりに広く普及したのか、それを合理的に分析するの  はむずかしい。つまり、アイデアによるイノベーションは、過去の事例から教訓を得て成功の法則を体系化し、再現可能なしくみにする  ことが不可能なのだ。 ☆アイデアからの事業は文字通りギャンブル   確かにアイデアによるイノベーションは、世界中に溢れている。しかし、それを狙って投資をするのは、企業家としては賢明ではない  。それは、宝くじで毎年一等を当てて数億円を手にしているからといって、何百万円ものくじを何度も繰り返し買うようなものだ。   企業はリスクはとるべきだが、ギャンブルをしてはいけない。投資するほど損が膨らむ確率が非常に高いとわかっているアイデア勝負  に資金をつぎ込むのは、企業としてあるまじき行為だ。   企業は、計画的に行動し、明確な目的意識で、42.「予期しない成功」から50.「新しい知識」までを活かしたイノベーションを追求す  べきだ。それだけでもやるべきことは、山ほどある。 誘惑にとらわれてはいけない。体系的で実直なイノベーションこそ事業の真髄である。